第5章 よい投資家になるためのテクニック

分散投資にも理屈がある

分散投資はリターンを確保しつつリスクを小さくする効果的な方法ですが、どのように分散投資するかによってその効果には違いが表れます。

投資信託は、1本ですでに分散投資を実現しています。例えば、野村アセットマネジメントの「ノムラ日本株戦略ファンド」は、2008年8月時点で、国内の株式307銘柄に投資しています。また、さわかみ投信の「さわかみファンド」は、2007年8月の報告書で国内の株式333銘柄に投資しています。

それぞれ300銘柄以上もの株式に投資していれば、十分に分散投資しているといえるでしょう。では、この2本に投資したら、さらに幅広い分散投資になるでしょうか? お分かりだとは思いますが、この2本に投資したとしても、さらなる分散投資にはつながりません。

では、さらに分散投資の効果を高めるにはどうすればよいのでしょうか?

分散投資の効果が高まるのはどんなとき?

分散投資が最も効果を発揮するのは、動きが異なる銘柄を組み合わせたときです。

例えば、対照的な2つの会社、海外からの輸入を得意とする「イトー商事」と、輸出を得意とする「ミチー物産」があるとします。

円高になるとイトー商事の株式は20%上昇します。一方で円安になると、ミチー物産の株式が20%上昇します。

さて、資金をどちらかの会社だけに集中投資したとしましょう。円高か円安になったときに何が起こるでしょうか?イトー商事に投資していれば、円高になったときに20%のリターンを得られますが、もしも円安だったらリターンを得られません。どちらかの会社だけに投資した場合、20%の儲けを得られる確率はざっくりと2分の1です。これを期待値であらわすと、20%を2で割って10%の期待値になります。一方で、まったく儲からない可能性が2分の1の確率で存在します。

では資金を半分ずつ両方の会社の株式に分散投資するとどうなるでしょうか。この場合、円高になっても円安になっても、どちらかの会社の株式が 20%のリターンをもたらしてくれます。資金の半分を投入したので資金全体では10%の上昇、すなわち期待値は10%です。しかもさっきと異なるのは、円高でも円安でもつねに10%儲かることです。儲からないリスクは消えてなくなりました。期待値はさきほどの例と同じ10%なのに、リスクはゼロなのです。

このように、できるだけ値動きが連動しない、それどころか反対に動く金融資産を組み合わせることが、分散投資のコツなのです。

相関関係が異なる金融資産とは?

具体的にどんな金融資産が反対に値動きする組み合わせなのでしょうか? よく一般論としていわれるのは、株式と債券は逆の動きをする、というもの。株式が値上がりするときには債券は値下がり、株式が値下がりするときには、債券が値上がりすると考えられています。となれば、ノムラ日本株戦略ファンドやさわかみファンドと、債券に投資する投資信託を組み合わせるのがよさそうです。

また、国内株式に投資する投資信託と、外国の株式や債券に投資する投資信託も、よい組み合わせかもしれません。

実際のところどうなのでしょうか?

実は金融の専門家たちはこうした組み合わせを上手に行うために、過去のデータを分析してそれぞれの相関関係を求めています。僕たちもそれを参照すれば、どの組み合わせが上手な組み合わせなのかを知ることができるのです。

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この表は、国内の国民年金や厚生年金の運用をしている年金積立金管理運用独立行政法人が、過去20年から30年のデータを用いて分析した結果、2008年時点での運用で参考にしている金融資産ごとの相関関係です。

相関関係は数値で表されていて、全く同一の動きなら1、関係ない動きなら0、正反対の動きなら-1になります。

表の数値を読み取ってみると、「-0.25」と、やや反対に動くのが国内株式と外国債券。「0.27」とあまり連動しないのが国内株式と外国株式などといった関係が分かります。

これらの関係を頭にいれてざっくり考えると、国内株式と外国債券と外国株式を組み合わせると、上手な分散投資ができそうです。

これらをまとめたのが現代ポートフォリオ理論

できるだけ異なった資産に分散して運用するという知恵は、以前から投資家にはよく知られていたことでした。これを理論化し、計算によって証明したのが 1952年にハリー・マーコウィッツ(Harry M.Markowits)氏が発表した論文が基礎になっている「現代ポートフォリオ理論」(Modern Portfolio Theory)です。マーコウィッツ氏はこの功績で1990年にノーベル経済学賞を受賞しました。

現代ポートフォリオ理論を用いて計算すれば、どの資産をどのような割合で組み合わせると、理想的なリスクとリターンを実現できるかが算出できます。そうしたアセットアロケーションの詳細については、また章を改めて説明しようと思っています。

ここで説明した大事なことは、次の3つのポイントです。分散投資を上手に実現するには、適切な組み合わせがあること。それを実現するには国内の株式だけではなく、外国債券や外国株式の投資信託も選択肢に入れたほうがいいこと。そしてそれを組み合わせることで、効果的にリスクを減らしてリターンを確保することが可能なのだ、ということです。

第5章 よい投資家になるためのテクニック
分散投資にも理屈がある
(最終更新 2008年8月18日)

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