第5章 よい投資家になるためのテクニック

長期保有もしくはバイ・アンド・ホールド

「長期保有(バイ・アンド・ホールド)」は、時間の経過を味方にしてリスクを小さくする方法です。

買ったらずっと売らない戦略

一度ある金融商品を買ったら、売らずにずっと持っていることを指して、長期保有もしくはバイ・アンド・ホールド(Buy and Hold)と呼びます。ただ保有しているだけのシンプルな戦略です。

これに対して、相場が下がる前に運用資産を売却し、上がる前に買うといった、市場の動向を予測して売却や投資を行うことで高いリターンを得ようとする戦略をマーケットタイミング(Market Timing)と呼びます。運用資産が目減りしたときに損切りを行うことも、マーケットタイミングの一種といえるでしょう。

どちらが有利なのかといえば、バイ・アンド・ホールドのほうが有利だと、一般的には考えられています。

マーケットタイミングはコストとリスクが問題

マーケットタイミングの最初の問題はコストです。運用資産を売買すれば、それに伴う手数料が必ず発生しますし、売却したとき利益がでていれば、その利益には課税されますし、購入するときには多くの場合に手数料が発生します。バイ・アンド・ホールドに比べると、マーケットタイミングはコストが掛かるのです。

そして2つ目の問題は、過去のデータからすると、マーケットタイミングの失敗は致命傷になりかねない、という点です。

ヴァンガード社が公開しているミシガン大学の研究によると、1963年から1993年の30年間におけるマーケットの値上がり幅のうち95%が、全取引日中で最も値上がりした1.2%の日に集中しているとのこと。つまり投資の利益のほとんどが100日のうちたった1.2日に集約されているということです。もしマーケットタイミング戦略でたまたまこの日を見逃していたら、大きな値上がりを見逃すことになります。

これは長い運用期間であっても、少しの間マーケットから離れただけでリターンが著しく減ってしまう可能性が高いということを示しています。

また、書籍「敗者のゲーム」(チャールズ・エリス著)では、8年間ずっとバイ・アンド・ホールドで運用していれば年平均で18%の上昇を得られたのに対し、もしもマーケットタイミングで運用していて、8年間で期中で最も上昇の大きかった上位20日で間違った判断をして、それぞれの日に資産を売却していた場合、年平均の上昇率は半分以下のわずか8%にまで低下してしまうというデータが示されました。

マーケットタイミングは、予測が当たって成功すればよいのですが、失敗した場合のペナルティが大きすぎます。バイ・アンド・ホールドのほうがずっと簡単で、それでいて高いリターンを期待できるといえそうです。

専門の運用機関もバイ・アンド・ホールド宣言

と、僕が結論づけるより、僕たちの厚生年金と国民年金を運用している国内最大の運用機関、「年金積立金管理運用独立行政法人」のホームページにある、運用方針を最後に紹介しておきましょう。

長期的な運用においては、短期的な市場の動向により資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していく方が、効率的で良い結果をもたらすことが知られています。

第5章 よい投資家になるためのテクニック
長期保有もしくはバイ・アンド・ホールド
(最終更新 2008年8月18日)

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